運送業の安全の要!「運行管理者」の役割と資格取得、配置ルールを専門家が解説
トラック運送業(一般貨物自動車運送事業)の許可を取得し、事業を運営していく上で、欠かすことのできない存在がいます。それが「運行管理者」です。今回は、運送業の安全運行を支えるこの重要な役割について、引き続き運送業許認可のエキスパート、行政書士の阪本浩毅さんにお話を伺います。
──阪本さん、今回もよろしくお願いします。運送業許可の要件の中でも、特に重要な「人」に関する要件として、「運行管理者」の選任が必須だと伺いました。まず、この運行管理者とは、具体的にどのような役割を担う方なのでしょうか?
阪本:はい、よろしくお願いします。運行管理者は、まさにトラック運送事業における「安全の要」とも言える非常に重要な役割を担っています。これは国家資格であり、その業務は多岐にわたります。具体的には、運転者さんへの指導や監督、日々の乗務スケジュール(乗務割)の作成、ドライバーさんが適切に休息できるための休憩施設や睡眠施設の保守管理、そして最も重要な業務の一つである「点呼」を通じて、ドライバーさん一人ひとりの疲労度や健康状態をしっかりと把握し、その日の安全な運行が可能かどうかを判断し、必要な指示を出すことなどが、主な職務として挙げられます。
──日々の安全運行を直接管理する、非常に責任の重い仕事なのですね。この重要な運行管理者になるためには、どうすればよいのでしょうか? 誰でも希望すればなれる、というわけではないのですよね?
阪本:おっしゃる通り、運行管理者は国家資格ですので、誰でもなれるわけではありません。運行管理者として選任されるための方法は、大きく分けて二つあります。一つは、国が実施する「運行管理者試験」に合格すること。もう一つは、トラック運送事業における運行管理の実務経験を一定期間以上積み、さらに必要な講習を受けることです。実務の現場を見ていると、多くの方が一つ目の「運行管理者試験」に合格することで資格を取得し、運行管理者として活躍されていますね。
──では、まずはその「運行管理者試験」について詳しく教えていただけますでしょうか。いつ、どこで実施されている試験なのですか?
阪本:運行管理者試験は、「公益財団法人運行管理者試験センター」という指定試験機関が、年に2回、通常は8月と3月に全国各地で実施しています。
──試験を受けるための条件、いわゆる受験資格はあるのでしょうか?
阪本:はい、誰でも無条件に受けられるわけではなく、受験資格が定められています。具体的には、次のどちらかの要件を満たしている必要があります。一つ目の要件は、事業用自動車(緑ナンバーのトラックなど。ただし、軽トラックを使用する貨物軽自動車運送事業は除きます)の運行管理に関して、1年以上の実務経験を有していることです。二つ目の要件は、もし1年以上の実務経験がない場合に、その実務経験に代わるものとして国土交通大臣が認定する「基礎講習」という講習を修了していることです。この講習は、受験する試験日の前日までに修了しているか、または修了予定であることが必要です。
──なるほど。運送会社での実務経験がない場合は、まず基礎講習というものを受ける必要があるのですね。
阪本:そういうことになりますね。それから、運行管理者試験には、我々が話しているトラック運送業などの「貨物」と、バスやタクシーなどの「旅客」の2つの区分がありますので、トラック運送業の運行管理者を目指す場合は、必ず「貨物」の試験を受験するように注意が必要です。
──その「実務経験に代わる講習」、つまり基礎講習は、どこで受講することができるのでしょうか?
阪本:国土交通大臣が認定した講習実施機関で受講することができます。最も代表的で、全国に拠点を持っているのが「独立行政法人自動車事故対策機構」、通称NASVA(ナスバ)です。このNASVAのウェブサイトなどで開催日程を確認し、申し込むのが一般的です。他にもヤマト運輸さんのグループ企業だったり、教習所だったりと、いくつかの認定機関があります。詳細は国土交通省や各機関のウェブサイトで確認できます。講習手数料は、NASVAの場合、現在(2025年7月時点)の情報では8,900円となっていますね。
──申し込みは簡単にできるものなのでしょうか?
阪本:NASVAの場合、講習の申し込みはインターネット上で行えるのですが、この基礎講習は非常に人気が高く、受付が開始されるとすぐに満席になってしまうことが少なくありません。ですから、運行管理者試験の受験を決めたら、できるだけ早めにNASVA等のウェブサイトで講習の開催日程を確認し、受付開始と同時に予約を入れるくらいの気持ちでいることを強くお勧めします。講習自体も、通常は3日間連続で行われ、その間、欠席はもちろん、遅刻や早退なども原則として認められません。無事に修了証を受け取るためには、しっかりと3日間のスケジュールを確保して、真剣に講習に臨む必要があります。
──実務上の注意点としては、どんなことが考えられますか?
阪本:やはり、計画性が重要です。特に基礎講習は、受けたくても予約が取れず、結果的に受験したいと思っていた時期の運行管理者試験の申し込みに間に合わなかった、というケースも実際に耳にします。許可申請のスケジュール全体にも影響が出かねませんので、運行管理者資格の取得は早め早めに準備を進めることが肝心です。
──試験の内容についても教えていただけますか? 出題範囲や合格基準はどのようになっていますか?
阪本:運行管理者試験(貨物)は、問題数が全部で30問、試験時間は90分間です。出題範囲は、大きく分けて5つの分野に分かれています。まず、運送業の基本法である「貨物自動車運送事業法」とその関連法令から8問。次に、車両の安全基準などを定めた「道路運送車両法」関連から4問。日々の運転ルールである「道路交通法」関連から5問。ドライバーさんの労働条件に関する法律である「労働基準法」関連から6問。そして最後に、「その他、運行管理者の業務に関し必要な実務上の知識及び能力」として、点呼のやり方や労務管理、事故防止対策など、より実践的な内容から7問、という構成になっています。
──合格するためには、何問正解すれば良いのでしょうか?
阪本:合格基準は、原則として、総得点が満点(30点)の60%以上であること、つまり30問中18問以上正解することが必要です。ただし、それだけではなく、出題分野①から④(事業法、車両法、道交法、労基法)についてはそれぞれ最低1問以上、分野⑤(その他実務知識)については最低2問以上正解していることも、合格の条件となっています。ですから、全体で18問以上取れていても、例えば労働基準法の問題が全問不正解だった、という場合は不合格になってしまいます。
──なるほど、苦手分野を作らないことも大切なのですね。試験対策はしやすいのでしょうか? 前回お伺いした役員法令試験は、合格率も低く大変そうでしたが…。
阪本:その点、運行管理者試験は、役員法令試験と比較すると、試験対策は格段に進めやすいと言えるでしょう。まず、試験を実施している運行管理者試験センターのウェブサイトで、過去に出題された試験問題が数年分公開されています。また、市販されているテキストや問題集の種類も豊富です。関連する情報もインターネットなどで比較的容易に手に入れることができますので、独学でも十分に合格を目指せる試験だと思います。独学で試験対策が難しい場合は、トラック協会や民間企業は試験直前に試験対策講座を実施していますので、そちらの受講を検討してみるのもよいでしょう。
──参考になる情報源などはありますか?
阪本:そうですね、最近はYouTube上でも運行管理者試験の対策に関する情報や法改正のポイントなどを発信していますので、もしよろしければ参考にしていただけると良いかもしれません。
──ありがとうございます。では次に、もう一つの運行管理者になるための方法、「実務経験」によるものについても教えていただけますか? 試験を受けずに資格を取る道もあるのですね。
阪本:はい、数はそれほど多くありませんが、試験に合格する以外にも運行管理者になる方法があります。これは、法律の条文でいうと「事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務について一定の実務の経験その他の要件を備える」と認められる場合に、申請によって運行管理者資格者証が交付される、という制度です。
──「一定の実務経験その他の要件」とは、具体的にはどのような内容なのでしょうか? ハードルは高そうですが…。
阪本:そうですね、かなりハードルは高いと言えます。少し複雑ですが、要件を分かりやすくまとめると、以下のようになります。まず、取得したい資格の種類(この場合はトラック運送業なので「貨物」)に対応した運送事業者(ここでも貨物軽自動車運送事業は除かれます)において、事業用自動車(緑ナンバー)の運行管理に関する実務経験が、通算で5年以上あることが必要です。さらに、その5年以上の実務経験がある期間中に、NASVAなどが実施している運行管理に関する講習(これは「基礎講習」または「一般講習」のどちらでも構いません)を、合計で5回以上受講している必要があります。加えて、その受講した5回以上の講習のうち、少なくとも1回は「基礎講習」でなければなりません。そして最後に、これらの講習の受講回数は、1年間につき1回までしかカウントされない、というルールがあります。これら全ての要件を満たしている方が、地方運輸局に申請することで、試験を受けずに運行管理者資格者証の交付を受けることができる、という流れになります。
──5年以上の実務経験と、その間に講習を5回(うち基礎講習1回以上、かつ年1回まで)… かなり時間と手間がかかりそうですね。
阪本:おっしゃる通りです。ですから、これから新たに運行管理者資格を取得しようという方のほとんどは、やはり運行管理者試験の合格を目指すのが一般的です。この実務経験による方法は、例えば長年、運送会社で運行管理の補助業務などに携わってこられた方が、キャリアの集大成として資格を取得する、といったケースが考えられますね。
──なるほど、よく分かりました。次に、運行管理者の必要人数についてお伺いしたいのですが、会社(あるいは営業所)に1人いれば良い、というわけではないのですよね?
阪本:その通りです。必要な運行管理者の最低人数は、法律で明確に定められています。まず大前提として、運送業を行う営業所ごとに、最低でも1名の運行管理者を選任しなければなりません。これが基本です。さらに、その営業所が保有している事業用自動車、つまり緑ナンバーのトラックの数に応じて、必要な最低人数が増えていきます。
──車両の数によって変わってくるのですね。具体的には、どのように計算するのでしょうか?
阪本:計算方法は以下の通りです。まず、営業所に配置されている事業用自動車の数が29両以下であれば、選任が必要な運行管理者は1名で足ります。しかし、車両数が30両以上になると、最低でも2名の運行管理者の選任が必要になります。その後は、車両数が30両増えるごとに、さらに1名ずつ運行管理者を追加で選任しなければなりません。具体的に言うと、車両数が30両から59両までの営業所では2名、60両から89両までの営業所では3名、90両から119両までの営業所では4名…といった具合に、段階的に増えていきます。
──具体例を挙げていただけますか?
阪本:例えば、ある運送会社さんが保有しているトラックが全部で20両しかないとします。しかし、そのトラックをA営業所に10両、B営業所に10両と、2つの営業所に分けて配置している場合、営業所ごとに最低1名が必要というルールが適用されますので、A営業所に1名、B営業所に1名、合計で2名の運行管理者を選任しなければならない、ということになります。
──なるほど、営業所が分かれている場合は注意が必要ですね。もし、一つの営業所に、法律で定められた最低人数以上の運行管理者、例えば3名とか4名とか、複数名いる場合はどうなるのでしょうか?
阪本:良い点に気づかれましたね。法律では、一つの営業所に複数の運行管理者を選任している場合には、その中から、その営業所全体の運行管理業務を統括する責任者として、「統括運行管理者」を1名選任しなければならない、と定められています。
──統括運行管理者ですか。分かりました。ところで、運行管理者の方は、営業所に常駐して点呼などを行う必要があるとのことですが、例えば長距離輸送などでドライバーさんが深夜や早朝に出発・帰着する場合、運行管理者の方が24時間ずっと営業所にいるわけにもいかないですよね。そういった場合は、どう対応するのでしょうか?
阪本:おっしゃる通り、特に長距離輸送を主体としていたり、24時間体制で集荷や配送を行っていて、営業所が常に稼働しているような運送会社さんでは、選任された運行管理者が1人だけでは、法律で義務付けられている全ての点呼業務などを適切にカバーすることは物理的に不可能です。そのような、運行管理者が不在となる時間帯の業務をカバーするために、「運行管理者補助者」を選任することが認められています。
──補助者ですか。これは、誰でもなれるものなのでしょうか? 何か資格が必要ですか?
阪本:運行管理者の資格を持っている方を補助者として選任することももちろん可能ですが、資格を持っていない方を補助者として選任する場合には、一定の要件を満たす必要があります。まず、先ほど運行管理者試験の受験資格のところでも出てきた、NASVAなどが実施する「基礎講習」を修了していることが必要です。加えて、その会社が定めている「運行管理規程」という社内ルールの中に、運行管理者補助者の職務内容や選任方法などを具体的に明記しておく必要もあります。
──補助者を選任したことを、運輸局などに届け出る必要はあるのでしょうか?
阪本:補助者を選任したこと自体を、運輸局に届け出る必要はありません。しかし、先ほど申し上げたように、運行管理規程の中に、補助者の選任や職務に関する規定を盛り込んでおくことは必須です。これは、監査などの際にチェックされる可能性があります。
──補助者に選任された方は、運行管理者と全く同じ業務を行うことができるのでしょうか?
阪本:いいえ、補助者が行える業務には制限があります。補助者が実施できる主な業務は、運行管理者の指導・監督のもとで行う点呼業務の一部です。ただし、これも無制限にできるわけではなく、補助者が行う点呼は、その営業所で行われる点呼の総回数の「3分の2未満」まで、と定められています。つまり、少なくとも3分の1以上の点呼は、選任された運行管理者が自ら行わなければなりません。その他、運行管理者が本来行うべき業務全般について、そのサポート(補助)を行うことが期待されています。運行管理の最終的な責任は、あくまで選任された運行管理者が負うことになります。しかし、適切に補助者を配置し、その役割を明確にして活用することは、運行管理の質を維持・向上させるとともに、運行管理者自身の過重な負担を軽減する上で、非常に重要だと言えるでしょう。
──最後に、運行管理者の兼任について教えてください。他の職務、例えば整備管理者や運転者と兼ねることはできるのでしょうか?
阪本:まず、車両の日常点検や定期点検整備を管理する責任者である「整備管理者」とは、運行管理者は兼任することが可能です。実際に、特に中小規模の運送会社さんでは、社長や役員の方が運行管理者と整備管理者を兼任されているケースはよく見られます。一方で、「運転者」との兼任については、原則として認められていません。
──なぜ運転者との兼任は基本的にダメなのでしょうか?
阪本:それは、運行管理者の最も重要な責務が、営業所において、点呼の確実な実施や、運行中のドライバーとの連絡、配車計画の管理など、運行全体の管理業務に専念することにあるからです。もし運行管理者が自らトラックのハンドルを握って運転業務に出てしまっていては、これらの営業所で行うべき本来の業務を適切に行うことができなくなってしまいますよね。ただし、これも絶対的な禁止ではなく、例外はあります。例えば、一つの営業所に複数の運行管理者が選任されていて、運行管理者が不在になる時間帯がないようにシフトが組まれている場合や、先ほど説明した適切な運行管理者補助者が選任されていて、運行管理体制が十分に確保されていると客観的に認められる場合に限り、限定的に運行管理業務に支障のない範囲での運転業務との兼務が認められるケースもあります。しかし、基本的には兼任不可と考えておくのが安全です。
──なるほど、運行管理者の役割の重要性がよく分かりました。安全運行のまさに要であり、許可を取得するためだけでなく、事業を継続していくためにも、非常に重要な存在なのですね。
阪本:まさにおっしゃる通りです。運行管理者は、運送業の許可を取得するために不可欠な人員であると同時に、許可取得後の事業運営においても、法令遵守と安全確保の最前線に立つキーパーソンです。資格を取得すること自体、特に3日間の基礎講習を受けて、さらに試験勉強をして合格するとなると、時間も労力もかかり大変です。しかし、例えばもう一つの重要な資格である整備管理者の資格取得には、実務経験や学歴によっては年単位の時間がかかることも珍しくありませんから、それに比べれば、運行管理者は計画的に準備を進めれば比較的短期間で確保できる資格かもしれません。
──許可申請を考える際には、この運行管理者の確保についても、早めに計画を立てておく必要がありそうですね。
阪本:はい。これまでお話ししてきた欠格事由、資金計画、そしてこの運行管理者を含む人的要件(ドライバーさんの確保なども含みます)は、運送業許可申請のまさに根幹をなす部分です。私ども行政書士法人シグマでは、単に申請書類を作成して提出するだけでなく、お客様の事業計画全体をよくお聞きした上で、必要な運行管理者や補助者の配置計画、運行管理規程の作成サポートなど、事業全体の視点から、許可の取得、そしてその後の安定した事業運営までを見据えたサポートを常に心がけています。運行管理者の確保や選任の方法、あるいは運行管理体制の構築などでお困りのことがあれば、ぜひ一度、お気軽にご相談いただければと思います。
──今回も大変参考になりました。運行管理者の重要性について、深く理解できました。ありがとうございました。
阪本:こちらこそ、ありがとうございました。
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