ゼロから始める運送業:許可取得までの道のりと期間、注意点を専門家が解説
今回は、運送業の許認可申請を専門に扱われ、数多くの事業者のスタートアップや運営を支援されてきた行政書士の阪本浩毅先生に、複雑とされる運送業許可のプロセスについて、詳しくお話を伺います。
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スタートラインに立つまで:運送業許可申請の全体像
── 阪本先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、トラックなどを使って貨物を運ぶ「運送業」を始めるには許可が必要とのことですが、この「許可申請」は具体的にどのような流れで進んでいくものなのでしょうか?全体像から教えていただけますか?
阪本: はい、こちらこそよろしくお願いいたします。運送業、正式には「一般貨物自動車運送事業」の許可申請ですね。これは、いくつかの大きな段階を経て進んでいきます。まず、事業の土台作りのための「準備段階」があり、次に「申請段階」、そして「審査段階」へと進みます。許可が下りた後も「許可後の手続き段階」があり、それらを全てクリアしてようやく「運輸開始」に至る、という流れになります。
── なるほど、準備から実際の事業開始まで、本当にたくさんのステップがあるのですね。それぞれの段階で、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?
阪本: まず準備段階では、事業の基盤となる要素を整えます。具体的には、営業所やドライバーさんの休憩・睡眠施設、そしてトラックを保管する車庫(駐車場)として使う物件を探し、賃貸借契約などを結んで使用権原を確保することが必要です。同時に、事業に使うトラックなどの車両を探し、購入やリース契約などで確保します。さらに、安全運行の要となる運行管理者や整備管理者、そして実際にハンドルを握るドライバーさんの候補者を見つけておく必要もありますね。もちろん、事業を始めるための資金、いわゆる自己資金の準備も欠かせません。
── まさに事業の土台作りですね。ヒト・モノ・カネをしっかり揃えるところから始まるのですね。この準備が整ったら、次の段階に進むわけですか?
阪本: その通りです。これらの準備が整って初めて、申請段階に入ります。ここでは、運送業許可の申請に必要な、非常に多くの書類を集め、不備なく作成していく作業が待っています。そして、作成した申請書類一式を、営業所の所在地を管轄する運輸支局という役所に提出します。
── 書類集めと作成、そして提出ですね。提出したら、いよいよ審査ですか?
阪本: はい、ここからが審査段階です。提出された書類が受理されると、まず申請者、法人の場合は役員の方が対象となる「法令試験」を受験し、これに合格する必要があります。並行して、運輸局によって提出された書類の内容が許可の基準を満たしているか、詳細な審査が行われます。
── 法令試験!これもクリアしないといけないのですね。審査に通れば、ついに許可が下りる、と。これで緑ナンバーがもらえるのでしょうか?
阪本: それが、多くの方が勘違いされているポイントなのですが、許可が下りてもすぐに事業を開始できるわけではないんです。許可書の交付を受けた後にも、いくつかの重要な手続きが残っています。例えば、「登録免許税」という税金を納付しなければなりませんし、準備段階で確保していた運行管理者さんと整備管理者さんを正式に選任した旨の届出も必要です。さらに、運輸を開始する直前には、申請通りに車両や設備がちゃんと整っているかを確認する報告も求められます。そして、これらの手続きを経て、ようやく事業用の車両、つまり緑ナンバーのトラックを登録することができるのです。
── えっ、許可が出てもまだそんなに手続きがあるのですか!許可書と緑ナンバーはセットで手に入るものだとばかり思っていました。
阪本: ええ、そう思われている事業者さんは非常に多いのですが、実際は違うのです。許可取得と車両登録(緑ナンバー取得)は別々の手続きになります。そして、無事に緑ナンバーの車両が用意でき、いよいよ運輸を開始した後にも、定められた期間内に「運輸を開始しました」という届出書と、「運賃と料金はこのように設定しました」という届出書を提出する必要があります。
── 本当に段階を踏んで、一つ一つクリアしていく必要があるのですね。近年、この一連の手続きに関して、何か変化や特に注意すべき点はありますか?
阪本: やはり、社会全体の安全意識の高まりや、いわゆる「2024年問題」に代表されるようなドライバーさんの労働環境改善への関心の高まりを受けて、コンプライアンス、つまり法令遵守の体制が非常に厳しくチェックされる傾向にあります。申請書類の内容はもちろんですが、実際に事業を開始した後も、労働時間管理や適切な運行管理、車両の点検整備などをきちんと行える体制が整っているかが重要視されます。ですから、単に許可を取るためだけでなく、事業を継続していくためにも、計画段階からしっかりとした法令遵守体制を構築しておくことが、以前にも増して重要になっていると言えますね。
どのくらいの時間がかかる?許可取得までのスケジュール感
── これだけ多くのステップがあると、実際に事業を開始できるまでには、やはり相当な時間がかかりそうですね。大体の目安として、準備を始めてから運輸開始まで、どのくらいの期間を見ておけばよいのでしょうか?
阪本: 私どもの事務所でサポートさせていただいている経験から申し上げますと、実際に準備に着手してから運輸を開始するまで、スムーズに進んだ場合でも6ヶ月程度、場合によっては1年近くかかるというケースがほとんどです。
── 半年から1年ですか!やはり長いですね…。特に時間がかかりやすいのはどの部分なのでしょうか?
阪本: スケジュール全体に大きく影響しやすいのが、先ほどの準備段階でお話しした「物件探し」と「車両の確保」ですね。特に、車庫として使用する物件探しは難航することがあります。十分な広さが確保できるか、接している道路の幅が大型車両の通行に適しているか、用途地域は問題ないか、といった様々な条件をクリアする物件、特に都市部で見つけるのは容易ではありません。過去には、都内で希望エリアの条件に合う車庫が見つからず、隣県まで範囲を広げてようやく見つかった、という事例もありました。
── なるほど。車庫が見つからないと、その後の手続きに進めないですものね。
阪本: おっしゃる通りです。この物件探しがどれだけスムーズに進むかで、全体のスケジュールが大きく変わってきます。もしなかなか見つからないようであれば、インターネット検索だけでなく、希望エリアの不動産業者を一軒一軒訪ねて相談してみる、といった地道なアプローチが意外と効果的だったりしますよ。営業所や車庫に求められる具体的な要件については、運輸局のウェブサイトや、当サイトの記事(例:「しっかりわかる!運送業許可取得の要件」)なども参考にされると良いでしょう。
── 根気強い情報収集が必要なのですね。他に時間がかかるポイントはありますか?
阪本: 許可申請に必要な書類の収集と作成作業も、想像以上に時間がかかる部分です。必要な物件や資金、人員の目処が立った後に行う作業ですが、これに集中できたとしても、通常1ヶ月程度は見ておくのが現実的です。
── 1ヶ月もですか!どんな書類が必要なのでしょうか?
阪本: もちろん、申請書本体が中心ですが、それ以外にも事業計画の詳細、資金計画の裏付けとなる資料、安全管理や運行管理の体制を示す書類、確保した営業所や車庫の図面や写真、使用権原を証明する契約書、役員の方々の履歴書や法令遵守を誓約する宣誓書など、本当に多岐にわたります。これを、多くの方が現在のお仕事を続けながら準備されるわけですから、どんなに効率的に進めても、やはり1ヶ月程度はかかると見込んでおくのが無難だと思います。
── 確かに、通常業務と並行してこれだけの書類を準備するのは、かなりの負担ですね…。ただ、許可を得ることはゴールではなくスタートだと考えると、焦りすぎず、事業開始後の運営もしっかり考えながら進める視点も大切ですね。
阪本: まさにその通りです。許可取得はあくまでスタートラインに立つための手続きですから、事業計画を練り上げたり、資金繰りを考えたり、人材育成計画を立てたりと、許可取得後の事業運営を見据えた準備と並行して、着実に進めていくことが重要です。
山場を越えて:申請提出から許可、そして運輸開始へ
── 苦労して書類一式が完成したら、いよいよ運輸支局への提出ですね。提出する際に気をつけることはありますか?
阪本: はい、申請書類が全て整ったら、営業所の所在地を管轄する運輸支局の「輸送部門」という窓口に提出します。窓口では、担当官がまず書類に記載漏れがないか、必要な添付書類が全て揃っているか、といった形式的なチェック、いわゆる形式審査を行います。ここで問題がなければ、申請書の表紙に受付印が押され、晴れて申請が受理されたことになります。
── もし、そこで書類が足りなかったり、記載に不備があったりしたら、どうなるのでしょうか?
阪本: その場合は、残念ながら申請書類一式を一旦持ち帰ることになります。そして、指摘された不備を修正したり、不足している書類を追加したりして、再度窓口に提出し直さなければなりません。行政手続きにあまり慣れていない事業者さんの場合ですと、何度か運輸支局に足を運び、ようやく受理に至る、ということも決して珍しくありません。
── 受理されるだけでも、なかなかのハードルなのですね…。無事に受理された後、審査にはどのくらいの期間がかかるものなのでしょうか?
阪本: 新規の許可申請の場合、運輸支局に申請書が受理されてから審査が完了するまでの目安期間として「標準処理期間」というものが定められています。関東運輸局の管内では、この期間は現在3ヶ月から5ヶ月とされています。
── 「標準処理期間」というと、その期間内に必ず結果が出る、ということですか?
阪本: いえ、これはあくまで行政手続き上の目安期間です。運輸局の審査状況や、申請案件の混み具合によって変動しますし、私たちの経験上、この標準処理期間よりも早く許可が下りるということは、まずありません。むしろ、申請内容について運輸局から確認の問い合わせがあったり、提出した書類に修正が必要になったりした場合には、審査期間はさらに延びることになります。
── なるほど、目安は目安として、実際はもっとかかる可能性が高いと。
阪本: そうですね。ですから、申請者の皆様には、申請書が受理されてから実際に許可が下りるまでは、最低でも5ヶ月程度はかかると見込んでおいていただくようお伝えしています。
── やはり審査にも時間がかかりますね。そして、先ほどのお話ですと、許可が下りた後も、すぐに緑ナンバーをつけて運輸を開始できるわけではない、ということでしたね。
阪本: その通りです。許可書を受け取った後、先ほどお話しした登録免許税の納付や運行管理者・整備管理者の選任届の提出、運輸開始前の確認報告、そして車両の登録といった一連の手続きを全て完了させて、はじめて運輸を開始することができます。この、許可が下りてから実際に運輸を開始するまでの手続きは、許可が下りた日から原則として1年以内に完了させなければならない、というルールになっています。
── 1年以内ですか。結構猶予があるようにも思えますが、もし、何らかの事情で1年以内に運輸開始できなかった場合は、どうなってしまうのでしょうか?
阪本: 原則としては、せっかく苦労して取得した許可が取り消されてしまうことになります。ただ、例えば、発注していた新車の納期がメーカーの都合で大幅に遅れてしまった、といったような、申請者の責めに帰すことができないやむを得ない事情がある場合には、事前に相談すれば期間の延長が認められることもあります。ですから、「1年経過したら即アウト」というわけではありませんが、基本的には1年以内に運輸開始できるよう、計画的に準備を進める必要があります。とはいえ、許可が下りる前から運輸開始に向けた準備、例えば車両の最終手配などをしっかり進めていれば、通常は許可取得後、概ね2週間程度で運輸を開始することも可能です。
── やはり、許可後の手続きも見据えた事前の段取りが重要ということですね。許可が出た後も、気を抜かずに進める必要があるのですね。
専門家という伴走者:複雑な手続きを乗り越えるために
── ここまで詳しくお話を伺って、運送業の許可申請がいかに多くのステップを踏む必要があり、時間もかかる複雑な手続きであるか、改めてよく理解できました。
阪本: そうですね。そして、これから許可取得を目指される方に、もう一つ強調しておきたい重要な点があります。それは、運輸局が用意している申請の手引きに書かれている書類を、ただ形式的に揃えて提出すれば、誰でも簡単に許可がもらえるわけではない、ということです。
── と言いますと?手引き通りに書類を揃えるだけでは、許可は下りないのですか?
阪本: 提出する書類というのは、あくまでも、申請する会社や個人事業主の方が、運送業を行うために定められた許可の基準、いわゆる「許可要件」を満たしているかどうかを、運輸局が確認するための「証拠資料」に過ぎません。ですから、その大前提となる許可要件、例えば適切な営業所や車庫が確保されているか、十分な自己資金があるか、法令を遵守する体制が整っているか、といった基準を満たしていない状況で、いくら書類上だけ体裁を整えて提出しても、審査の結果、不許可となってしまうだけなのです。
── なるほど!書類はあくまで結果であって、その前提となる実態、つまり許可の基準をクリアしていることが何より重要だということですね。
阪本: まさにその通りです。ですから、実際に申請準備を進める上では、書類作成そのものよりも前に、「そもそも自社の状況で許可要件を満たせるのか、もし満たせていない部分があればどう改善すればよいのか」「事業を開始し、軌道に乗るまでに必要な資金は具体的にいくらで、それをどうやって用意し、どう証明するのか」「この長い手続きを、いつまでに何をすべきか、どうスケジュール管理していくのか」「役員の方が必ず受けなければならない法令試験に、どうやって合格するのか」といった、いくつもの実質的なハードルを乗り越えていく必要があるのです。
── うーん、考えなければいけないことが山積みですね…。これは独力で進めるのは相当大変そうです。そこで、やはり専門家である行政書士の先生に依頼するという選択肢が有効になってくるわけですね。
阪本: はい、そう言えると思います。私どものような運送業許可を専門とする行政書士にご依頼いただければ、まず事業者様の状況を詳しくヒアリングし、許可要件を満たしているかどうかの確認から始めます。もし不足している点があれば、どうすればクリアできるか具体的なアドバイスを差し上げます。その上で、許可取得までの詳細なスケジュール、いわばロードマップを作成し、全体の進捗を管理していきます。もちろん、膨大で複雑な申請書類の収集や作成、そして運輸局への提出代行も行います。申請後も、運輸局からの問い合わせ対応や折衝を代行しますし、多くの方が不安に感じられる役員法令試験についても、過去問の提供や出題傾向の分析、勉強方法のアドバイスといった対策サポートを行います。さらに、無事に許可が下りた後の、運輸開始に至るまでの様々な手続きもしっかりとサポートさせていただきます。
── それは本当に心強いですね!申請準備から許可後のフォローまで、一貫してサポートしてもらえるのですね。
阪本: ええ。専門家が手続き面を全面的にバックアップすることで、事業者様は、本来最も注力すべき事業計画のブラッシュアップや資金調達、人材の確保・教育といった、事業本体の準備に安心して専念していただくことができます。結果として、単に許可を取得するだけでなく、法令を遵守した適正な事業運営の基盤を築き、スムーズに事業をスタートさせることが可能になります。これが、専門家にご依頼いただく最大のメリットだと考えています。
── なるほど。時間と労力を節約できるだけでなく、より確実で質の高い事業スタートが切れるということですね。シグマさんでは、様々なケースの許可取得を支援されているのですよね?
阪本: はい、おかげさまで、大手企業の物流子会社設立のような大規模な案件から、長年ドライバーとして経験を積まれた方の独立開業、個人事業主から法人成りして事業規模を拡大されるケースまで、本当に多種多様な事業者様の運送業許可取得をお手伝いさせていただいております。それぞれの事業者様の状況やご希望に合わせて、最適なサポートを提供することを心がけておりますので、もし運送業許可の取得手続きでお悩みやご不安があれば、ぜひ一度、お気軽にご相談いただければと思います。詳しいサービス内容や料金については、当サイトの「トラック運送業の新規許可」ページなどもご参照ください。
まとめ:確実な許可取得と、その先の成功を見据えて
── 本日は、運送業許可申請の複雑な流れ、期間、注意点、そして専門家を活用する意義まで、非常に具体的かつ分かりやすくお話しいただき、本当にありがとうございました。全体を通して、これから許可取得を目指す方々にとって、最も大切なことは何だとお考えになりますか?
阪本: やはり、まずは正確な情報を収集し、ご自身の状況を客観的に把握した上で、実現可能な計画を立てること、これに尽きると思います。運送業の許可申請は、確かに多くの時間と労力を要しますが、一つ一つのステップを確実にクリアしていけば、必ず道は開けます。そして、決して一人で全てを抱え込もうとせず、分からないことや不安なことがあれば、遠慮なく運輸局の窓口や、我々のような専門家に相談することが重要です。早期に相談いただくことで、無駄な時間や労力をかけずに済むケースも多々あります。
── 事前の情報収集と計画性、そして適切な相談が鍵になるのですね。
阪本: はい。加えて、許可取得後の事業運営を見据えた視点も忘れてはいけません。特に、安全管理体制の構築とコンプライアンス意識の徹底は、今の時代の運送事業者にとって必須の要件です。許可を取ることだけを目的とせず、安全運行を第一に考え、法令を遵守するクリーンな経営を心がけることが、地域社会から信頼され、長く事業を継続していくための最も重要な基盤となります。ドライバー不足や燃料費の高騰、DX化への対応など、運送業界を取り巻く環境は常に変化していますが、こうした変化に柔軟に対応しつつ、社会のライフラインを支えるという使命感を持って、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。私どもも、その挑戦を全力でサポートさせていただきます。
── 大変勇気づけられるお言葉です。阪本先生、本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。
阪本: こちらこそ、ありがとうございました。
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