【2024年改定】標準的な運賃及び標準運送約款の見直しについて解説
2024年3月22日に告示・施行された新しい「標準的な運賃」は、運賃水準を8%引き上げるとともに、荷待ちや荷役などの対価についても標準額を示す内容となっています。運賃交渉の中でこれを活用することで、実運送事業者が適正な対価を得られるようになることが期待できます。
実運送事業者が適正な運賃・料金を得られるようになれば、労働時間の上限規制の適用と相まって、トラックドライバーの方々の処遇が改善される見込みです。このことは、運送事業者が人材を確保するための一助となることでしょう。
また、「標準的な運賃」に基づき、労務費や下請手数料などを荷主に対して適正に転嫁することは、実運送事業者の経営状況の改善にも寄与するのではないかと思われます。
今や物流の「2024年問題」がニュースで大きく取り上げられ、政府や世論はトラック運送事業者の皆様を後押ししています。適正な運賃・料金を得るための行動を起こす絶好の機会といえるのではないでしょうか。
ところで、トラック運送事業者が運賃・料金を変更した際には、法令の定めにより、地方運輸局長に対して変更の届出書を提出しなければなりません。ただし、2020年4月の告示の際に届出を行った事業者で、今回の「標準的な運賃」を適用した事業者については、特例により届出が不要になります。(国土交通省の通達による)
それとは逆に、2020年告示の「標準的な運賃」を引き続き適用しようとするトラック運送事業者は、その旨を記載した届出が必要となります。複雑な運用となっていますので、十分にご注意いただきたいと思います。
手続きが必要になるかどうかについては以下の図をご参照ください。
Contents
トラックドライバー処遇改善のために
物流は社会経済を支える重要な社会インフラですが、これを支えてきたのは荷主や元請事業者に「ものを言えぬ」実運送事業者とそこで働くトラックドライバーの過酷な労働だということが、公的機関のデータや報道などで明らかになっています。
例えば、トラック運送事業の脳・心臓疾患による労災支給件数の割合は、全業種の33%(厚生労働省調べ:2021年度)を占めており、これは2番目に多い総合工事業の6.4%を大きく引き離し、突出した割合となっています。
また、トラックドライバーの年収は全産業の平均を5~3%(約30万~約60万円)下回っているのにもかかわらず、労働時間は約2割(約400時間)長くなっています。時間当たりの賃金で見ると、全産業平均よりも3割ほど低いということになります。
2024年4月からトラックドライバーに「働き方関連法案」に基づく労働時間の上限規制が適用されています。この規制はドライバーの健康を守るために不可欠なものですが、労働時間の短縮によって収入が減少する懸念もあります。
「2024年問題」に対応し、物流の停滞を最小限に抑えるためには、業務の効率化を進めるのはもちろん、トラック運送事業を魅力ある産業に育て、人材を確保していかなければなりません。そこで、ドライバーの賃金を上げるための施策が政府一体となって進められてきました。
「標準的な運賃」・「標準運送約款」見直しの必要性
国土交通省は、物流の「2024年問題」に直面するトラック運送事業者を支えるために、2023年8月より検討会を開催し、「標準的な運賃」と「標準運送約款」の見直しに向けての議論を行ってきました。
「標準的な運賃」は、実運送を担うトラック運送事業者が、法令を遵守しつつ健全な事業運営を行っていく際の参考指標として2018年に創設された制度です。2024年3月までの「標準的な運賃」は、2020年4月に告示されたものです。
ご存じのことと思いますが、その際には国土交通省とトラック協会による「標準的な運賃」普及推進運動が官民一体となって重点的に実施されました。その結果、2020年告示に基づく運賃・料金の届出率は、2022年度末時点で52%となっています。
しかしながら、告示された「標準的な運賃」と実際に契約された運賃の金額との間の溝は、次のグラフが示すようにまだまだ埋まってはいません。告示に基づく届出率も高めていく余地があります。そこで、新たな運賃の設定と普及活動の継続が提言されました。
(国土交通省の資料より)
一方、「標準運送約款」は、トラック運送事業者が荷主や利用運送事業者と締結する運送契約のひな型です。これまでも幾多の見直しが行われてきましたが、「実運送事業者に正当な対価が支払われるようにする」という観点から、踏み込んだ見直しが求められました。
「標準的な運賃」・「標準運送約款」見直しの具体的内容
今回(2024年)の見直しは、実運送事業者が健全な事業運営のために必要な運賃を収受でできるような環境を整備し、物流の持続的な成長を確保するために行われたものです。ここでは、現行の商慣行を前提とすることなく、これを是正していくことが宣言されています。
また、これらの見直しは、2023年度に国土交通省が開催した「標準的運賃及び標準運送約款の見直しに向けた検討会」での議論を踏まえ、以下の3つの観点から行われているものです。
- 荷主等への適正な転嫁
- 多重下請構造の是正
- 多様な運賃・料金設定
それでは、「標準的な運賃」及び「標準運送約款」の見直しの内容について具体的に確認していきましょう。なお、告示の施行日は「標準的な運賃」は2024年(令和6年)3月22日、「標準運送約款」は2024年(令和6年)6月1日となっています。
荷主等への適正な転嫁
近年の燃料の値上がり分や人件費の上昇分を適切に運賃に転嫁するために、距離制運賃表や時間制運賃表において、運賃が平均約8%引き上げられました。また、従来は価格の明示がなかった燃料サーチャージについて、基準価格が120.00円/Ⅼと定められました。
燃料サーチャージにおける運賃の改定は、軽油価格が5.00円/Lの幅で変動した時点で、翌月から適用されることとされています。
「標準運送約款」の改定においては、運送と運送以外の業務が別の章に分離され、荷主から対価を収受する旨が明記されました。そして、積込みや取卸しを行った場合の標準的な料金が明示されています。これらの料金の明示は、今回の「標準的な運賃」の告示で初めてなされたものです。
これは、表に出ることがなかったトラックドライバーの無償のサービスが、労働の対価として正式に認められたものだといえるでしょう。今後、実運送事業者の収益の増加とドライバーの賃金の上昇に寄与するものと思われます。
また、荷待ち時間を減らすための対策として、荷待ち・荷役(積込みや取卸し)の時間が合計2時間を超えた場合には、5割増の料金となるペナルティーが設けられています。
多重下請構造の是正
トラック運送事業の多重下請構造は、実運送事業者に適正な対価が支払われないことも多く、トラックドライバーの過酷な労働環境の一因とされていました。そこで「標準的な運賃」の中に、運賃の10%を利用運送料(下請手数料)として運賃とは別に受け取ることが記載されました。
これによって、下請次数が多ければ多いほど、荷主や利用運送事業者、元請運送事業者の負担が重くなることになります。多重下請構造が是正されていくことが期待されています。
また、これまで明確な規定がなかった運送の申込みと引受けについて、書面化または電子化した上で相互に交付することが約款に明記されました。契約の書面化・電子化は、運送業務のみならず、付帯業務やその料金、燃料サーチャージなども含まれます。
多様な運賃・料金設定
物流の効率化を考える際には、トラックの輸送能力に対する実際の輸送活動の割合である積載効率を上げることが重要です。しかし、自動車輸送統計年報(2022年度分)を見ると、営業車の積載効率は40%ほどにとどまっています。
分かりやすくいえば、貨物運送事業者のトラックは、平均すると積載率40%の状態で走行しているということになります。つまり、60%は「空気」を積んで走っているのと同じです。この空間を利用できれば、効率化が図れることは明らかです。
そこで、共同輸送・共同配送を推進するための施策として、「個建運賃」が新たに設けられました。この運賃体系は、以下のイメージ図で示すように貨物1個ずつの運賃を算定するものになります。
(国土交通省の資料より)
また、リードタイム(受注から納品までの日数・時間)が短い運送をする際の「速達割増」や、高速道路を利用しないことによる運転の長時間化を考慮した運賃設定も行われています。
まとめ ~トラック運送事業の持続的な成長のために~
「標準的な運賃」は、トラック運送事業者が自社の適正な運賃を算出し、荷主との運賃交渉に臨むにあたっての参考指標としての性質をもつものです。法律上の義務ではありませんので、事業者はこの指標に拘束されるものではありません。
しかし、たとえ「標準的な運賃」と異なる運賃体系を採用するとしても、自社の原価を適切に見積もり、トラックドライバーの労働条件を改善し、持続的に事業を経営するためのツールとして活用する価値があるものと考えます。
言うまでもなく、今回の告示は、トラック運送事業者の事業の健全な発展のためになされた国の施策です。日本の物流の未来は、この機会に「賃上げ」が業界全体として行われるかどうかにかかっているといっても過言ではないでしょう。
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