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車輪脱落事故のリスクについて弁護士に伺いました

今回は、トラックをはじめとした事業用自動車の車輪脱落事故のリスクについて、川崎武蔵小杉法律事務所代表の橋本弁護士にお話を伺っていこうと思います。

本日はよろしくお願いします。

大型車の車輪脱落事故がなかなか減りません。

令和5年11月に島根県浜田市で発生した大型トラックの車輪脱落事故では、走行中の大型トラックのタイヤが外れて歩行者の男性を直撃し、男性は大けがを負った事故が発生してしまいました。車輪脱落を引き起こした大型トラックの運転者は自動車運転過失傷害の疑いで、運送会社の役員とその従業員が業務上過失傷害の疑いで、それぞれ書類送検されました。

自動車運送事業の監督官庁である国土交通省は、大型車の車輪脱落事故が依然として発生していることに危機感をもっています。

そこで、本日は、弁護士の橋本先生に、運送業者が車輪脱落事故を起こしたときに生じる各種の責任について解説をお願いしたいと思います。

まず思いつくのは刑事上の責任ですが、この点はいかがでしょうか?

よろしくお願いします。

仰るとおり、トラック・バス・タクシーなど、旅客や貨物の運送を行う車両で車輪脱落事故を起こし他人に危害を加えた場合、刑事法(刑法や自動車運転処罰法等の刑罰法規)上の責任が生じますので、この点について説明します。

まず、死傷者が発生した場合、自動車運転者については交通事故として自動車運転致死傷罪が成立します。

”七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金”となりますが、傷害が軽いときは情状によりその刑を免除される場合があります。

なお、自動車運転過失致死傷罪が成立する場合には、過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪は成立しません。

ドライバー以外が刑事上の責任を問われることもあるのですか?

整備を怠ったり、設計に問題があったりしたために事故が生じた場合に、それらの整備者や設計者等が、別途、業務上過失致死傷罪に問われる場合もあります。

これらの者については、自動車運転者ではないため、自動車運転過失致死傷罪は成立しません。

また、代表者が、適切な整備体制をとっていなかったことについて業務上過失致死傷罪に問われる可能性もあります。

車輪脱落事故を起こして人を死傷してしまった場合には、重い刑事上の責任が課されるのですね。

人には当たらず、物を破壊してしまったような場合はどうですか?

対物の場合には、主に行政処分の対象となり、他には、民事責任のみが成立するにとどまるといってよいと思われます。

一般に、刑法上では、住居や建造物を損傷した場合に、建造物等損壊罪、その他の物を損壊した場合に器物損壊罪といった犯罪がありますが、これらは故意犯のみであり、過失犯の場合であれば成立しません。

これまで起きた事故では、具体的にどのような刑事上の責任を負ったケースがあるのでしょうか?

平成24年2月8日に最高裁の決定があった、いわゆる「三菱ふそう車輪脱落事件」は、大型トラクタの左前輪のハブが走行中に破損して左前輪のタイヤホイールが脱落し、脱落した左前輪が、左前方の歩道上にいた女性に背後から激突したという事故でした。

この事故により、当該女性は頭蓋底骨折等により死亡し、同女性と一緒にいた児童2名も事故の衝撃で路上に転倒し、各全治約7日間の傷害を負いました。

この事件は、車輪の脱落が車両メーカーのリコール隠蔽に起因するものであったため、当時の品質保証業務を担当していた者に業務上過失致死傷罪が成立しました。

なお、車輪の脱落が車両メーカー側の問題である場合であっても、運転者になお過失があるような場合は、運転者についても、自動車運転過失致死傷罪に問われることがあります。

運転者が通常の走行をしていたのであれば、車輪の脱落は防ぐことが難しいと思われますので、そのような場合には、メーカーや整備担当者などのみが責任を負うこととなります。

ただし、運転者が整備の義務も負っており、整備を怠っていた場合には、運転そのものに過失があっても、業務上過失致死傷罪の責任は免れません。

ここまで刑法上のお話をしていただきましたが、道路交通法にも刑罰があると思いますが、こちらはどうでしょうか?

そうですね。道路交通法上の刑罰もあります。

車輪脱落事故ということは、整備不良ということになるので、その状態で車を運転するのは、事故を起こさなくても、道路交通法の第62条「整備不良車両の運転禁止」に抵触し、3ヶ月以下の懲役か、5万円以下の罰金が科せられます。

これは、運転者だけではなく、車両使用者、整備責任者にも、具体的に使用する車両が整備不良の場合には運転を禁止しています。

なお、当該車両を利用する法人等を罰するという規定もあります。

刑事上の責任は以上です。

ありがとうございました。

では次に民事上の責任について解説をお願いできますでしょうか。

車輪脱落事故が発生し、これにより人の生命・身体や財産に損害を発生させた場合、通常の交通事故と同様に、当該車両の運転者に民事上の不法行為責任が発生し、被害者に対し損害賠償責任を負う場合があります。これは人損、物損を問いません。

なお、刑事責任の場合と同様に、運転者運転でなくもっぱら整備のみに問題があったようなときは、過失がないため運転者は責任を負わないということもありえます。

ただし、その場合でも整備責任者や会社は責任を負うことになると思われます。 

また、当該事故により被害者が死亡した場合、被害者が生前有していた加害者に対する損害賠償請求権は相続されるため、運転者は相続人に対して損害賠償責任を負うこととなります。

つぎに、使用者責任についてですが、旅客や貨物を行う車両運送で車輪脱落事故が発生した場合、当該運転者だけでなく、使用者(事業主や会社)にも、原則として使用者責任が発生し、被害者に対し損害賠償責任を負うことになります。

使用者責任は、使用者が当該事業の執行につき選任・監督上相当な注意をしたときは免責されますが、認められるためのハードルは極めて高く、そのような免責が認められた事例はほとんど存在しないことに注意が必要です。

民法以外の法律についてはどうでしょうか?

自動車損害賠償保障法3条の責任もあります。

これは、車両の運転者だけでなく、自己のために自動車を運行の用に供する者に責任を課しており、いわゆる運行供用者責任と呼ばれるものです。

なお、自賠責に関連する法律ですので、物損には適用されず、人身損害のみに適用されるのが特徴です。

これも、使用者責任のように、運転者のほかに会社等も民事責任を負うケースの一つです。つまり、雇主は、前述の使用者責任も負い、かつ自賠法3条の責任も負いますが、その内容は重なります。

ただし、自賠法3条の責任の特徴として、運行供用者のほうで無過失を立証せねばならず、立証ができないときは責任を負いますので、民法よりも過失の立証責任の観点において、運行供用者に厳しくなっています。

車輪脱落による人身事故で自賠法3条が適用される場合に、運行供用者が無過失を立証するのは容易ではないので、運転者の雇主が責任を免れることは事実上不可能に近いでしょう。

民事上の責任については以上です。

ありがとうございます。

最後になりますが、行政上の責任についてはどうでしょうか?

運転免許に関わる行政処分として点数が何点になるかは、加害者となってしまった運転者は心配だと思います。

少し長くなりますが、一気に説明しますね。

まずは道路交通法です。

道路交通法では交通違反の制度を定めており、整備不良及びそれによる交通事故については、その違反点数制度の対象となります。

交通違反の点数については、道交法施行規則に根拠があり、別表第二に整備不良の項目があります。

整備不良については、2点のものと1点のものの二種類が規定されておりますが、車輪の整備は極めて重要ですので、制動装置等に含まれる2点のほうに該当すると思われます。

2点ですので、ほかに違反や違反歴等がなく、これのみであれば、免許がすぐに停止されることにはなりません。

ただし、同じ別表第二には、別途、安全運転義務違反(2点)があるので、具体的な運転の態様によっては、これに該当する可能性も考えられます。

さらに、車輪脱落により事故を起こした場合、物損ならとくに加算はありませんが、人身事故の場合には、その点数が加算されます(付加点数)。

高速度で運行中に車輪脱落が生じた場合には、多くは何らかの事故も併発すると思われますので、注意が必要です。

車輪脱落事故を生じさせた場合として、運転者に責任が生じるケースとしては、運行前の日常点検を怠っていた場合のほか、車両に違和感を抱きながら漫然と運行を継続したケース等があると思われますが、前者が純粋な整備不良であるのに対して、後者は、運行前の整備不良のほかに運転そのものが安全運転義務に違反するものとして、安全運転義務違反にも問われる可能性が考えられます。

さらには、道交法62条にいう整備不良とは、整備を怠ることそのものですから、実際に事実として車輪が脱落した場合のみならず、運行後に、脱落しそうな危険な状態の車輪の状況が未然に発見されたような場合にも、理論上は、整備不良として違反点数が課されることになります。

ただ、一度運行を開始してしまうと、実際に車輪が脱落するまで整備不良を発見するのは難しく、日常的にはたまたま何もなく、違反点数も引かれず、しかし、事故が起きるときというのは、いざ突然車輪が脱落するなどして事故が起きる、という構造となってしまっているかと思われます。

ですから、それだけに、日常の点検が必要となります。

当然、法令に定められた点検(いわゆる車検だけではありません)のタイミングでは整備、点検しているわけで、それを怠った場合には別途それらの法令による罰則があります。

しかし、そもそも、それだけでは日常の点検としては足りませんし、整備不良や事故の責任を免れることもできません。

もちろん毎回、運行前の整備、点検は必要ですが、一定の本格的な点検の頻度については、走行距離や車両の使用態様などによって異なるので、それぞれの運転者が考えて行動するほかありません。

続いて道路運送車両法です。

道路運送車両法では、原則、自動車の使用者が日常的に自動車の点検・整備を行うと定められていますが、保有する自動車の台数が多いと点検等が曖昧になること、車両によっては専門知識が必要で整備が困難であることから、法は一定規模以上の自動車の使用の本拠ごとに整備管理者を選任する旨定めています。

従前から、整備管理者が法令違反を犯した場合は、地方運輸局長による解任命令が可能で、命令違反の整備管理者には30万円以下の罰金が科されます。

さきほどご紹介した三菱ふそう車輪脱落事件をはじめとして、大型トラック等の車輪脱落事故が多発していることをうけて、「道路運送車両法の一部を改正する法律等の施行に伴う整備管理者制度の運用について」の改正がされ、令和5年10月1日より処分が強化された経緯があります。

具体的には、大型車のホイールボルト折損等による車輪脱落事故が発生した場合、初回であれば20日車の行政処分となり、同事故から3年以内に再び車輪脱落事故が発生した場合は40日車の行政処分が下されることとなっています。

この2回にわたる車輪脱落事故について、改正後は解任命令における解任事由としても追加されました。

従前から、解任命令の該当事由には自動車の整備不良が掲げられていましたが、車輪脱落事故の重大さに鑑みて、この点にフォーカスした規定が設けられたといえます。

最後に貨物自動車運送事業法です。

貨物自動車運送事業法では、一般貨物自動車運送事業者に対し、自動車の定期点検と安全性の確保を義務付け、輸送の安全の確保を阻害する行為を禁止し、安全性の確保がされていないと認められるときは、国土交通大臣による安全確保命令の対象となるとともに、公表の対象となります。

安全確保命令に違反した場合、100万円以下の罰金が科されています。

安全性の確保には、上記の車輪脱落事故を防止するための整備等も含まれるところ、事業者が車輪脱落事故防止の整備を怠ったときは、6月以内の期間を定めた当該自動車の使用停止もしくは事業の全部または一部の停止命令の対象となるだけでなく、事業許可そのものの取消対象ともなります。

そして、事業者が車輪脱落事故防止の整備を怠ったことが荷主の行為に起因するときは、荷主に対しても違反是正措置の勧告が行うことができます。

当該勧告は公表の対象となります。

車輪脱落事故を起こしてしまうと、刑事、民事、行政と、かなり重い責任が生じるおそれがあるということがよくわかりました。

不適切なタイヤ交換作業と、日常点検の未実施によって、車輪脱落事故が発生しています。

運送業者の皆様は日頃から意識されていることだとは思いますが、車輪脱落事故防止のためには、次の4点を確実に行っていただきたいです。

1.錆や汚れの清掃と給脂
2.確実な締め付け
3.増す締めの実施
4.日常点検の実施

橋本先生、本日はくわしい解説をしていただきありがとうございました!

ありがとうございました。

橋本弁護士に、車輪脱落事故によって生じる責任について解説していただきましたが、いかがだったでしょうか。

運送業者の皆様は、日頃から車両整備には注力されているとは思いますが、万が一車輪脱落事故を起こしてしまった際には、現場で適切な処置をとることはもちろん、なるべく早く弁護士に相談することも重要です。

川崎武蔵小杉法律事務所さんでは、運送業者の交通事故に関する相談をはじめ、運輸・物流業界の法務支援を受け付けておられるとのことです。顧問弁護士をお探しの運送業者様も、一度、川崎武蔵小杉法律事務所の橋本先生に相談してみてはいかがでしょうか。

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