運送業許可、その前に要チェック!専門家が解説する「許可が下りない」落とし穴と対策
緑ナンバーのトラックで運送業を始めるには、一般貨物自動車運送事業の許可が必要です。しかし、誰もが簡単に許可を取得できるわけではありません。今回は、運送業の許認可手続きに精通した行政書士の阪本浩毅さんをお招きし、許可申請の前提となる「許可を受けられないケース」について、詳しくお話を伺いました。
──本日はよろしくお願いします。早速ですが、運送業を始めたいと考えても、許可が下りないことがあると聞きました。これはどういった理由からなのでしょうか?
阪本:はい、よろしくお願いします。おっしゃる通り、運送業を行うための許可には、貨物自動車運送事業法という法律で定められたルールがあります。その中に、「こういう人や会社には許可を与えません」という条件、いわゆる「欠格事由」が明確に規定されているんです。これに一つでも当てはまってしまうと、残念ながら許可を受けることはできません。
──法律で定められた「欠格事由」ですね。具体的にはどのような内容なのでしょうか? やはり厳しい条件が多いのでしょうか?
阪本:そうですね、いくつか重要なポイントがあります。まず、過去に法律違反などがあった場合です。例えば、1年以上の懲役や禁錮の刑を受けて、その刑の執行が終わってから、あるいは執行猶予期間が終わってから5年を経過していない方は対象となります。
──なるほど、過去の犯罪歴が問われるのですね。
阪本:はい。それから、以前に運送業の許可を取り消された経験がある場合も、その取消しの日から5年間は新たに許可を受けることができません。これは、許可を取り消されたのが法人の場合、その取消しの原因となった聴聞(行政庁が処分前に行う意見聴取の手続き)の通知が届いた日の60日前から取消し日までの間に役員だった人も対象になります。
──許可取消しは相当重い処分ですから、厳しい制約があるのですね。
阪本:ええ。さらに、申請者本人だけでなく、その親会社や子会社、グループ会社など、密接な関係にある会社が過去5年以内に許可を取り消されている場合も、欠格事由に該当します。これは、ペーパーカンパニーを作って規制を逃れるような行為を防ぐためです。例えば、A社が許可を取り消された後、実質的に同じ経営陣がB社を作って申請しても、関係性が明らかであれば許可取得は難しいと考えてください。。
──許可取消しに関連して、他にも注意点はありますか?
阪本:許可取消しの処分を免れるために、処分が決定する前に事業を廃止してしまうケースがあります。こうした、いわば「計画倒産」のような形での廃止を防ぐための規定もあります。具体的には、許可取消しの聴聞通知が届いてから、処分が決定するまでの間に事業廃止の届出をした場合、その届出日から5年間は許可が受けられません。また、行政監査が入ってから、その後の聴聞手続きが完了するまでの間に事業を廃止した場合も同様に、廃止日から5年間は欠格期間となります。
──つまり、「問題が発覚したから、一旦会社を畳んで、すぐに別の会社で申請し直そう」という考えは通用しないということですね。
阪本:その通りです。役員に関する規定も重要です。法人の場合、役員の中にこれまで説明した欠格事由(刑罰、許可取消し、取消しに関連する事業廃止など)に該当する方が一人でもいると、その法人は許可を受けることができません。
──ここでいう「役員」というのは、登記簿に記載されている取締役や監査役だけを指すのでしょうか?
阪本:いいえ、それが重要な注意点です。法律上の役員だけでなく、登記はされていなくても、相談役や顧問といった肩書で、実質的に会社の経営に対して役員と同等以上の権限や影響力を持っていると判断される人も「役員」とみなされ、欠格事由のチェック対象となります。ですから、欠格事由のある人を裏方に置いて、別の人を名目上の役員にしても、実態が見られれば許可は下りません。実際に過去には、登記上の役員ではない会長職の方が実質的な経営者と判断され、その方に欠格事由があったために不許可となったケースもあります。
──なるほど、実質的な経営権を持つ人が見られるわけですね。未成年者が申請する場合の規定もあるようですが、少し表現が難しいですね。
阪本:「営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者」という部分ですね。これは、法律上の扱いの話になります。通常、未成年者は単独で契約などの重要な法律行為を行えませんが、例外があります。親などの法定代理人から運送業の営業を行うことについて許可を得ている未成年者や、すでに結婚している未成年者は、法律上、成人と同様に扱われます。
──では、この欠格事由の規定は、どのような未成年者に適用されるのですか?
阪本:法定代理人からの営業許可を得ていない、かつ未婚の未成年者が申請する場合や、成年被後見人の方が申請する場合に適用されます。この場合、申請者本人ではなく、その法定代理人(通常は親権者)や成年後見人に欠格事由がないかどうかを審査します。もし、法定代理人などに欠格事由があれば、ご本人が申請しても許可は得られないということです。
──法律で定められた欠格事由はよく分かりました。これ以外にも、許可の妨げになるような基準はあるのでしょうか?
阪本:はい、法律の条文には直接書かれていなくても、国土交通省の各地方運輸局、例えば関東運輸局などでは、より具体的な許可申請の「処理方針」というものを定めて公表しています。ここにも、実質的な欠格事由と言える基準が示されています。
──運輸局独自の基準があるのですね。どういった内容ですか?
阪本:代表的なものとしては、申請者や法人の役員(ここでも実質的な権限を持つ人を含みます)が、過去に運送業関連の法律、つまり貨物自動車運送事業法や道路運送法に違反して、行政処分を受けたことがあるかどうか、という点です。具体的には、申請日の前6ヶ月間(ただし、悪質な違反の場合は1年間)、または申請日以降に、「自動車その他の輸送施設の使用停止」以上の処分、あるいは使用制限(禁止)の処分を受けたことがある場合は、許可が難しくなります。
──車両停止処分などですね。例えば、過積載を繰り返したり、整備不良で指摘されたりした場合などが考えられますか?
阪本:おっしゃる通りです。そういった違反による処分歴が問われます。さらに、「悪質な違反」については、より厳しい目が向けられます。
──その「悪質な違反」とは、どのようなものが該当するのでしょうか?
阪本:処理方針の細則で具体例が挙げられています。例えば、違反の証拠を隠滅しようとしたり、その疑いが強い場合。あるいは、飲酒運転やひき逃げといった悪質な運転行為や、社会的な影響が大きい事故を引き起こした場合。さらには、最も重い処分の一つである「事業停止」処分を受けた場合などが該当します。これらの場合は、処分から1年間は許可申請が認められない可能性が高いです。
──やはり、法令遵守の姿勢が厳しく問われるのですね。役員の範囲についても注意が必要ですか?
阪本:はい、ここでも法律上の欠格事由と同様に、会社上の常勤役員だけでなく、非常勤の役員や、会社法上の役員ではなくても顧問などの肩書で実質的な経営に関与している人も「役員」とみなされる可能性があります。どこまでが対象となるかはケースバイケースですが、注意が必要です。
──過去の処分歴は、その会社だけでなく、関わっていた人にも影響するのですか?
阪本:その通りです。重要なのは、処分を受けた会社の、その処分の原因となった違反行為があった当時に役員だった人も対象に含まれるという点です。ですから、先ほども少し触れましたが、「違反で処分を受けた会社は畳んで、すぐに別の新しい会社を作って許可を取り直そう」という方法は通用しません。例えば、A社が監査で重大な法令違反が見つかり、車両停止処分を受けたとします。その当時役員だったBさんが、処分後に新たにC社を設立して許可を申請しても、過去の経緯が考慮され、許可が下りない可能性が高いのです。
──なるほど、過去の経緯から逃れることはできないわけですね。他に、許可の前提としてクリアしておくべき重要な条件はありますか?
阪本:はい、もう一つ、非常に重要なのが「社会保険への加入」です。
──社会保険ですか。これは具体的にどの保険を指すのでしょうか?
阪本:健康保険、厚生年金保険、そして労働保険である労災保険、雇用保険のことです。これらの社会保険や労働保険について、加入義務がある事業者は、きちんと加入手続きを済ませていることが、運送業許可の前提条件となります。
──加入は必須ということですね。
阪本:原則として必須と考えてください。法人であれば、基本的に全ての保険に加入する義務があります。個人事業主の場合、少し条件が異なりますが、従業員(ドライバーさんなど)を常時5人以上雇用する場合は、法人と同様に健康保険・厚生年金にも加入しなければなりません。
──従業員が5人未満の個人事業主の場合はどうなりますか?
阪本:常時雇用する従業員が4人以下の個人事業主の場合は、労災保険と雇用保険、つまり労働保険のみの加入で許可申請自体は可能です。ただし、従業員を1人でも雇うのであれば、労働保険への加入は必須です。そして、事業が拡大して従業員が5人になった時点で、速やかに健康保険・厚生年金(社会保険)への加入手続きを行う必要があります。
──もし、加入義務があるのに加入していなかったら、どうなるのでしょうか?
阪本:まず、許可処分後の運輸開始前報告の段階で社会保険の加入状況を確認されます。未加入では緑ナンバーは交付されません。仮に何らかの形で緑ナンバーが取れたとしても、事業開始後の巡回指導や監査で未加入が発覚すれば、是正指導や行政処分の対象になります。近年、特にこの社会保険加入については、行政のチェックが厳しくなっています。
──それはなぜでしょうか?何か背景があるのですか?
阪本:運送業界では、ドライバーさんの労働環境改善が大きな課題となっています。長時間労働の問題や、いわゆる「2024年問題」への対応など、コンプライアンス遵守の重要性が高まっています。社会保険への加入は、従業員の福利厚生の根幹であり、適正な雇用関係の基本です。そのため、行政としても、事業者が法令を守り、従業員が安心して働ける環境を整えているかという点を非常に重視しているのです。
──なるほど。許可を取得するためには、いつまでに加入手続きを完了させておく必要があるのでしょうか?
阪本:許可が無事に下りた後、実際にトラックに緑ナンバーをつけて事業を開始する前に、「運輸開始前確認報告」という手続きを行います。この報告の際に、社会保険や労働保険に加入したことを証明する書類、例えば年金事務所が発行する「新規適用届」の控えや、労働基準監督署・ハローワークで手続きした「労働保険関係成立届」の控えなどを提出しなければなりません。この確認報告が完了しないと、緑ナンバーの交付に必要な「事業用自動車等連絡書」が発行されません。ですから、許可申請の手続きと並行して、早めに社会保険・労働保険の加入の準備を進めておくことが、スムーズな事業開始のためには不可欠だと考えます。
──手続きには時間がかかることもありますか?
阪本:はい、書類の準備や窓口での手続きなど、ある程度の時間は見ておくべきです。特に初めて手続きされる場合は、不明な点も多いかと思います。許可申請の見通しが立った段階で、できるだけ早く、管轄の年金事務所や労働基準監督署、ハローワークに相談し、手続きを開始することをお勧めします。必要であれば、労務の国家資格者である社会保険労務士さんのサポートを受けるのも良いでしょう。
──よく分かりました。つまり、運送業許可を得るためには、まず「欠格事由に該当しないこと」、そして「社会保険等にきちんと加入すること」、この2点が大前提となるわけですね。
阪本:まさにおっしゃる通りです。これらは、営業所や車庫の確保、車両の準備、運行管理者や整備管理者の選任、資金計画といった、具体的な許可要件を満たすための準備を進める、さらにその前の段階での、いわば入口のチェックポイントと言えます。
──今日お伺いしたような欠格事由などを知らずに、先に物件の契約などを進めてしまうと、大変なことになりそうですね…。
阪本:そうなんです。特に欠格事由は、後から発覚した場合のリスクが非常に大きい。例えば、候補となる営業所や車庫が見つかり、意気込んで賃貸借契約を結び、敷金や礼金、保証金などを支払った後で、実は役員の中に欠格事由に該当する人がいた、ということが判明したら、許可は受けられません。そうなると、支払った費用が無駄になるだけでなく、事業計画そのものが頓挫してしまいます。これは非常に大きな損失です。
──だからこそ、事前の確認が何よりも重要になるわけですね。
阪本:はい。ですから、運送業の許可取得を具体的に考え始めたら、まず第一歩として、ご自身や役員候補の方に欠格事由がないか、法人やご自身の状況で社会保険・労働保険の加入義務がどうなるのか、といった点を、ごまかさずにしっかりと確認することが肝心です。「たぶん大丈夫だろう」という安易な判断は禁物です。もし、少しでも不安な点や不明な点があれば、許可申請手続きを開始する前に、ぜひ我々のような行政書士などの専門家にご相談いただくのが、最も確実で安全な方法だと思います。
──専門家として、これから運送業を始めようと考えている方へ、何かアドバイスはありますか?
阪本:運送業界は、ご存知の通り、燃料費の高騰や深刻なドライバー不足、そして働き方改革関連法による時間外労働の上限規制いわゆる「2024年問題」、そして2025への対応など、多くの課題に直面しています。このような状況下で、法令遵守、コンプライアンスの意識は、これまで以上に事業継続のための生命線となっています。許可取得は、あくまでスタートラインに立つための手続きに過ぎません。本当に重要なのは、許可を取得した後、日々の運行管理、労務管理、車両管理などを適正に行い、安全を最優先にした事業運営を継続していくことです。今回お話しした欠格事由や社会保険の問題でつまずかないことは当然として、その先の事業運営を見据え、法令をしっかりと理解し、覚悟を持って取り組む姿勢が何よりも大切です。厳しい状況ではありますが、社会を支える重要なインフラ産業ですから、高い志を持って参入されることを期待しています。
──大変参考になるお話でした。本日はどうもありがとうございました。
阪本:ありがとうございました。
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