運送業許可の要件にはどのようなものがありますか?
相談者様:神奈川県内の運送業者様
トラック運送業(一般貨物自動車運送事業)をはじめたいと思っているのですが、許可を取るための要件にはどのようなものがあるのですか?
回答者:行政書士法人シグマ
緑ナンバーのトラックを自社で運行するための運送事業をはじめるためには、貨物自動車運送事業法に基づく一般貨物自動車運送事業許可を取得することが不可欠です。
この許可は、輸送の安全を確保しながら運送事業を健全に発達させることで、良質な運送サービスを提供するために規定されている様々な基準を満たすことで取得することが可能です。
一般貨物自動車運送事業許可を取得することで、業務の正当性と信頼性が保証され、顧客や取引先からの信頼を得ることができるでしょう。
Contents
1.貨物自動車運送事業許可の種類
貨物自動車運送事業には、「一般貨物自動車運送事業」「特定貨物自動車運送事業」そして「貨物軽自動車運送事業」という三つの貨物自動車運送事業が存在します。
貨物軽自動車運送事業はイメージがわきやすいのではないでしょうか。黒ナンバーがついた軽自動車で貨物の運送を行うのが貨物軽自動車運送事業になります。
特定貨物自動車運送事業は、特定の者の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業をいいます。ある特定の荷主、しかも一社専属の運送事業が特定貨物自動車運送事業です。
一般貨物自動車運送事業は、不特定多数の他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業のことをいいます。
一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業で使用する自動車は、三輪以上の軽自動車と二輪の自動車を除いた自動車であると貨物自動車運送事業法で定義されています。従って、この2つの事業で使用する車両は事業用ナンバーの中でも緑色のものになります。
特定貨物自動車運送事業は、単一特定荷主、つまり荷主は一社のみになってしまいます。荷主の自家輸送を代行する事業が、特定貨物自動車運送事業と考えてください。
特定貨物自動車運送事業と一般貨物自動車運送事業許可を取得する条件は、以前は差がありました。特定貨物自動車運送事業の方がどちらかというと許可取得は容易でした。
しかしながら、現在は、特定貨物自動車運送事業許可と一般貨物自動車運送事業許可を取得する条件は、ほぼ同じです。
荷主が一社に縛られてしまう特定貨物自動車運送事業許可を取得するよりも、不特定多数の、複数の荷主の貨物を取り扱うことができる一般貨物自動車運送事業許可を取得する方が合理的です。
実際、特定貨物自動車運送事業者数は、平成3年の1465者をピークに減少の一途をたどっており、令和4年時点では309者となっています。
したがって、緑ナンバーの車両を使用したトラック運送事業にこれから参入されるのならば特定貨物自動車運送事業許可ではなく、一般貨物自動車運送事業許可の取得を目指されるのがよろしいかと思います。
2.許可を得るための基本要件
一般貨物自動車運送事業許可を取得するためには、以下のような「人」「モノ」「資金」の3つの基本要件を満たす必要があります。
「人」の要件: 役員、運転者、運行管理者、整備管理者
「モノ」の要件:貨物自動車、営業所、休憩睡眠施設、自動車車庫
「資金」の要件: 事業開始に要する資金
この3つの基本要件の概要を一つずつみていきましょう。
「人」の要件
「人」の要件は、役員、運転者、運行管理者、整備管理者に関する内容になります。
役員は、貨物自動車運送事業法令で定められている事項に抵触する役員が貨物自動車運送事業許可申請会社の中にいると許可が取得できません。また、貨物自動車運送事業担当役員となる一名が一般貨物自動車運送事業に関連する法令知識を理解しているかどうかを確認するために、運輸局が実施する法令試験に合格する必要があります。
運転者は、車両台数が5台ならば通常5名の運転者を確保できる見込みがあることが要求されます。確保しなければならない運転者の雇用条件に制限があり、次のいずれかに該当する方は、運転者として選任することができません。
- 日々雇い入れられる者
- 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
- 試みの使用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く)
「人」の要件の最後は、運行管理者・整備管理者です。
運行管理者・整備管理者は誰でも選任できるのではなく、法令で規定されている選任要件を満たしている方の中より選任する必要があり、そのような方を確保できる見込みがあることが求められます。
「モノ」の要件
次に「モノ」の要件を確認していきましょう。
モノの要件は、車両、営業所、休憩睡眠施設、自動車車庫に関する条件になります。
車両の要件
車両は、申請事業者が使用権原を有することが求められます。使用権原を有するとは、車検証上の所有者又は使用者に使用者の名義になることを言います。
中古車でもリース車でも一般貨物自動車運送事業の車両としても認められますが、リース車の場合は、リース契約が許可取得日から1年以上あることが求められます。
車両の大きさや構造などが輸送する貨物に適していることが前提となりますが、一般貨物自動車運送事業で使用する車両の中には、軽貨物車は含めることができません。ハイエース・キャラバン・プロボックス・ADといった小型貨物車は、貨物車に分類されるため一般貨物自動車運送事業で使用する車両に含むことができます。
車両の台数は最低でも5台必要になります。霊きゅう運送や離島などの場合は1台でも事業を開始できますが、通常の一般貨物自動車運送事業は最低でも5台の車両が必要になります。
トレーラータイプの車両を使用する場合は、ヘッド(牽引車)とシャーシ(被牽引車)がセットで1台とカウントします。
営業所・休憩睡眠施設・自動車車庫の要件
営業所・休憩睡眠施設そして自動車車庫に使用する土地や建物は、申請事業者が使用権原を有することが求められます。
申請事業者が所有しているもしくは、賃貸物件の場合は許可取得日から2年以上の契約期間があることをもって、使用権原を有すると判断されます
建物の場合は、農地法や建築基準関係法令に抵触していないことも求められます。
農地を一般貨物自動車運送事業の事業施設に転用したい場合は農地転用手続きが必要になり、市街化調整区域内にある土地に営業所や休憩睡眠施設を建設したい場合は開発許可も必要になります。
営業所・憩睡眠施設に使用する建物の用途地域による用途制限にも気を付ける必要があります。
一般貨物自動車運送事業の営業所・休憩睡眠施設は事務所等に該当しますが、事務所等に使用する建物は、次の用途地域には原則として建てることができません。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 田園住居地域
第二種中高層住居専用地域は2階以下の建物であれば、事務所等の建物が建築可能ですので、一般貨物自動車運送事業の営業所・休憩睡眠施設に使用することはできるでしょう。
自動車車庫は、無蓋車庫であれば、市街化調整器区内でも設置可能です。市街化調整区域内に自動車車庫を設置する場合は、田んぼや畑といった農地ではないことを確認してください。農地の場合は、農地転用手続きが必要になります。
営業所の具体的な大きさの要件はありませんが、適切な運行管理が行うための常識的な大きさが必要であると考えてください。
一方、休憩睡眠施設の大きさは、運転者が睡眠・仮眠をとる場合は、運転者1人あたり2.5㎡以上の広さを確保しなければなりません。運転者は睡眠・仮眠をとる必要がない場合は、大きさの条件はなく、運転者が休憩をとれる現実的な大きさを確保しておけば問題ないでしょう。
休憩睡眠施設の立地は営業所又は車庫に併設している必要があります。
自動車車庫特有の要件
自動車車庫の要件は、営業所・休憩睡眠施設の要件と少し異なるので注意が必要です。
まず、自動車車庫の立地は、原則は営業所に隣接するものであることを求められています。
但し、併設できない場合は、川崎市内・横浜市内に営業所があるときは直線距離で20㎞以内、川崎市・横浜市以外の神奈川県内に営業所があるときは直線距離で10㎞以内に自動車車庫があれば良いとされています。
次の自動車車庫の大きさです。車両の周囲に50cm以上の空間を確保しながら、営業所に配置する事業用自動車が収容できることが求められます。
月極駐車場であっても一般貨物自動車運送事業の車庫として使用することはできますが、車両の周囲に50cm以上の空間を確保するのが難しい物件が多いので現地を必ず確認しましょう。
最後に、前面道路の幅員についてです。自動車車庫の前面道路と車両の車幅との関係で、車両制限令に抵触しないことが求められます。
前面道路が私道の場合は、その私道に接続する公道が車両制限令に抵触していないことが求められます。私道を通行することになるので、私道所有者より私道を通行することの許可を取得していることも求められます。
「資金」の要件
最後に、「資金」の要件です。
資金要件は、資本金の額や純資産の額ではありません。いくらあれば大丈夫、というものではありません。
一般貨物自動車運送事業の開始に要する資金以上の自己資金が、申請日から許可処分の日までの間、常時確保されていることが求められます。
事業に要する資金として計上する項目とその金額は、こちらのシートに記載されています。
人件費であれば、6ヶ月分の給与や手当の額を、車両をリースで調達する場合はリース料1年分を、それぞれ事業に要する資金として計上することがこちらの表から読み取れます。
自己資金は、申請事業者の預貯金額で判断されます。
売掛金を自己資金額に含めることが認められていますが、売掛金を自己資金の額に含めると月次試算表の準備が必要になるため許可申請手続きが複雑になります。
自己資金は預貯金額のみと考えていただいた方がよいでしょう。
3.トラック運送業許可取得のためのポイント
トラック運送業の許可は、運輸局の手引きに記載されている書類を揃えて提出すれば誰でも取得することができるものではありません。
貨物自動車運送事業法やそれに関係する法令で定められている許可取得の要件を満たしていることが求められます。
さらに、申請事業者が、許可取得の要件を満たしていることを書面上で明らかにする必要があります。
許可要件を満たしていない状況で提出書類をいくら整えても許可は取得できません。許可申請書の提出窓口は営業所を設置する都道府県になる運輸支局となります。神奈川県内に営業所を設置する場合は、神奈川運輸支局が申請窓口になります。申請窓口では、提出書類が一通りそろっているかの形式面の審査しか行いません。実質審査は、申請書類が地方運輸局へ送達されて地方運輸局で行われます。
窓口で申請書類は受理されたが、実質審査の場面で、許可要件を満たしておらず、やむなく許可申請を取り下げる事業者もいらっしゃいます。
トラック運送業許可取得準備は、許可要件を満たしているかの確認からはじめると、申請準備の段取りや申請後の審査が円滑に進行するでしょう。
許可要件は複雑な内容になっています。
自社が許可要件を満たしているのか、許可要件を満たしていないときはどのようにすれば許可要件を満たすことができるかなどの判断は、専門的な知識が必要になります。
許認可手続きの国家資格者の行政書士は、ビジネスモデルが一般貨物自動車運送事業許可に該当するかどうかや、申請事業者が許可要件を満たしているか否かの判断を行って、必要な書類の作成代理申請を行います。
行政書士へ依頼すると費用がかかるから・・・、と行政書士の起用を躊躇されていませんか?
確かに行政書士に一般貨物自動車運送事業許可申請手続きを依頼すると、それなりの費用がかかってしまいます。許可申請準備や審査の段階でもたついていると、営業所・自動車車庫の空家賃や、従業員の人件費が生じます。運輸局とのやりとりも大変です。
行政書士への支払いを費用とは考えずに、スムーズに運送業へ参入するための投資と思っていただければと思います。
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